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乳児湿疹、アトピー性皮膚炎の治療

当院のアトピー性皮膚炎の診療の特徴

小児のアトピー性皮膚炎では、気管支喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎といった、アレルギー性疾患を複数合併していることが少なくありません。また、年齢を経るうちに、徐々に発症する場合もありますから(アレルギーマーチ)、これらのアレルギー性疾患を総合的に診療します。

アトピー性皮膚炎

スキンケアの指導、軟膏の適切な使い方の練習など、看護師と一緒に実践しながら、理解を深めます。

院内感染が心配な乳児は、一般診療とは時間を分けて診察をしています。 

当院ではスギ花粉症およびダニアレルギーに伴う通年生アレルギー性鼻炎のアレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)を行なっています。アレルゲン免疫療法とは、アレルギーの原因であるアレルゲンを少量から投与することで、体をアレルゲンに慣らし、根本的な体質改善が期待できる治療法です。現在はスギ花粉症と、ダニアレルゲンによる通年生アレルギー性鼻炎の治療が可能です。このページでは、主にスギ花粉症を例に解説しますが、治療法などはダニアレルギーの場合もほとんど同じです。

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎とは、皮膚に紅斑(赤み)、丘疹(ブツブツ)、落せつ(皮膚がカサカサしてむける)などの痒みのある湿疹が混在して良くなったり悪くな ったり、慢性的にくりかえす状態です。
アトピー性皮膚炎は、多くは乳幼児期に発症して、小児の有病率はだいたい10%程度と考えられます。年齢とともに徐々に改善することが多いのですが、一部が成人のアトピー性皮膚炎に移行します。乳児湿疹は、赤ちゃんの一過性の皮膚炎ですが、適切に治療をしないと遷延してしまい、掻破してしまうために、徐々に増悪します。乳児期のアトピー性皮膚炎との鑑別は難しく、治療で湿疹が一時的に改善しても、繰り返してしまう場合は、アトピー性皮膚炎の可能性があります。
乳児湿疹もアトピー性皮膚炎も適切に治療を行えば、痒みのコントロールは可能で、良い状態の皮膚を維持することができます。

アトピー性皮膚炎の病態

正常な皮膚では、角層という皮膚の最も外側の組織が、環境中のさまざまな刺激から体を保護し、体内の水分の蒸散を防いでいます。しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚では、一見正常でもこの皮膚のバリア機能が低下しています。近年、アトピー性皮膚炎の患者さんには、バリア機能と関わりの深い角層の蛋白質の遺伝子に異常を持つ人がいることも明らかになってきました。つまり、アトピー性皮膚炎の患者さんは、生まれつき皮膚のバリア機能が脆弱で、さまざまな刺激で痒みが生じやすく、さらに掻き壊しによって悪化するという「悪循環」を繰り返していると考えられます。

小児のアトピー性皮膚炎の特徴

アトピー性皮膚炎が乳幼児に多いのは、皮膚の機能が十分に発達していないため、 成人と比べてバリア機能に異常が起こりやすいからと考えられます。
乳児期には頬、耳周囲、口周りや顎など顔の露出部に湿疹が生じやすく、次第に痒みが生じて掻くために、首や脇、腕や脚の擦れる箇所や 関節部に広がって行きます。皮疹は身体のどの部分でも出る可能性がありますが、特に刺激を受けやすく、掻きやすいところに多く現れますから、日頃のスキンケアが大切です。

小児アトピー性皮膚炎の治療の重要性

アレルギー疾患が、次から次へと発症する様子を行進に例えて「アレルギーマーチ」と言います。アトピー性皮膚炎の乳幼児は、その後の食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎など、他のアレルギー疾患を発症しやすいことが知られています。
アトピー性皮膚炎で皮膚のバリアが破壊されていると、環境中の様々なアレルギー物質(アレルゲン)が皮膚から体内に入ってきます。体内でアレルギー反応が惹起されて、他のアレルギー疾患の原因になってしまうのです(これを「経皮感作」と言います)。経皮感作を防ぎ、後の様々なアレルギー疾患を予防するためにも、早期からのスキンケアや、アトピー性皮膚炎の治療が大切となるのです。

当院ではぜん息の診断と治療に呼気NO測定を用いています。ぜん息の患者では呼気ガス中のNOが健常者に比べて高いことが知られています。気道の炎症が強いと呼気NOは上昇し、吸入ステロイドなどを用いた適切な治療を行うことで低下します。呼気NOを測定することで気道の炎症レベルを客観的に評価して、治療に役立てることができる可能性があります。

診断
  • レントゲン検査
  • 血液アレルギー検査
気道炎症の評価
  • 呼気NO測定
気道の狭窄
  • フローボリューム曲線
  • ピークフロー
  • 血液酸素飽和度

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは深く関係していて、アトピー性皮膚炎の重症度と食物アレルギーの発症率は相関する、というデータがあります。
アトピー性皮膚炎の場合、バリア機能が低下しているため、チリやホコリとなった食物が、皮膚から体内に入ってきやすくなっています。また、皮膚に炎症があるために、食物アレルギーの発症に関係する、IgE抗体が産生されやすくなっています。乳児期のアトピー性皮膚炎の治療が遅れると食物アレルギーになりやすい、と言えます。アトピー性皮膚炎の治療をきちんと行い、皮膚のバリア機能を高めて、炎症をコントロールすることが、食物アレルギーを予防することにつながる可能性があります。

アトピー性皮膚炎の治療の3本柱

アトピー性皮膚炎の治療の3本柱は①スキンケア(皮膚の清潔と保湿)、②薬物療法(外用剤の塗布、痒みに対する内服薬など)、③環境整備(室内のアレルゲン対策など)です。

1)日常生活で注意すべき点

入浴のこと
  • 毎日しっかりお風呂に入りましょう。湯船で温まりすぎると入浴後の痒みが強くなります。入浴後に汗をかいたり、頬や手足が赤くなったりするような長湯はさけます。入浴剤も身体が温まりすぎるため、あまりお勧めしません。
    お風呂で体を洗うタオルなどの素材も大切です。ナイロン製のものは刺激が強く、皮脂を落としすぎてしまいます。小さなお子さんならお母さんの手が一番。タオルを使用する場合も、ガーゼなど肌触りの良い木綿素材のものを選びます。石鹸やボディーソープなど、しっかり泡だててから使用するようにしてください。汚れは擦り落とすものではなく、泡と馴染ませて洗い流すイメージです。
汗とかゆみ対策
  • 外遊びが多い子どもは、皮膚が汗やホコリで汚れ、このような皮膚は、痒みや、膿痂疹(とびひ)など皮膚感染症の原因になります。たくさん汗をかいた後はシャワー浴で汗を流します。その際に、下着は新しいものに取り替えてください。
    子どもが訴える痒みに対していは、ステロイド軟膏などによる、皮膚炎の鎮静化が根本的な解決策ですが、急な痒みの訴えには、シャワー浴をしたり、痒みを生じている部分に冷たいタオルや保冷剤をあててあげることも有用です。また、あらかじめ保湿剤を冷蔵庫で冷やしておいて、幹部に塗布してあげるのも気持ちいいでしょう。
プールや海水浴
  • プールの消毒に用いる塩素、海水は、放置すると皮膚を刺激して強い痒みを誘発します。このような遊びの後は、必ずシャワー浴(可能であれば石鹸を用いて洗浄)を行なってください。清潔にした後に、保湿剤やステロイド外用薬の再塗布が必要な場合があります(主治医に相談してください)。 皮膚のちょっとした湿疹や傷であれば、プール、水遊びは可能です。とびひを合併している際は、治癒するまで控えてください。

2)保湿剤によるスキンケア

アトピー性皮膚炎では、皮膚が乾燥して、バリア機能が弱く、外部からの刺激を受けやすい状態です。そのため、ステロイド外用薬や、タクロリムス軟膏に加えて、必ず保湿剤を併用する必要があります。石鹸で皮膚を清潔に洗った後は、落とされた皮脂を補い、乾燥を防技ます。入浴後はできるだけ速やかに(入浴後5分以内が目標)、まだ肌がしっとりしている間に保湿剤を塗布することが大切です。夏季はプールや、シャワー浴の後、冬季は空気が乾燥するため適宜、保湿剤を使用して乾燥を防いでください。

保湿剤の使用方法
  • 1日1回~3回、全身に塗布します。耳介の内側や、頭皮は皮脂の分泌が多いために保湿剤を使用しなくても大丈夫ですが、それ以外の部分にはすべて塗布します。具体的には、大人の人差し指の先端から第1関節までチューブを押し出した軟膏量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積の皮膚に塗布するのが目安です。この軟膏の量を1FTU(フィンガー チップ ユニット)と表現します。
    当院では、外来で看護師と一緒に外用薬を実際にお子さんに塗布して、指導を行なっています。適切な外用薬の使い方が理解できると、皮膚の状態が劇的に良くなることも少なくありません。
アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる可能性のある治療です。完全に症状がおさえられない場合でも、症状を和らげてアレルギー治療薬の使用量を減らすことが期待できます。
治療は長期間(3~5 年)かかります。継続することで根本的な体質改善ができます。正しく治療が行われていれば初めてのスギ花粉飛散シーズンから症状を和らげることが期待できます。治療終了後も効果が持続し続けます。

3)薬物療法

外用療法
  • アトピー性皮膚炎の薬物療法は、外用薬の使用が中心です。外用薬としては、皮膚の炎症を抑えて痒みを軽減させるステロイド外用薬とタクロリムス軟膏が用いられます。
    ステロイドとは、副腎皮質という臓器で作られるホルモンの一つです。皮膚の炎症を抑えて、湿疹や皮膚の痒みを改善することができ、アトピー性皮膚炎の最も標準的な治療です。誤った知識や情報によって、ステロイド外用剤の使用にご不安を持つ方もいらっしゃいますが、適切にステロイド外用薬を使用すれば、重篤な副作用はほとんどありません。
    タクロリムス軟膏は、ステロイド外用薬と同様に、皮膚の炎症を抑える働きがあります。2歳未満には使用が認められていませんが、ステロイド外用薬と異なり、長期間使用しても皮膚の菲薄化が生じないなど、優れた性質があります。塗りはじめに皮膚がピリピリする刺激感を感じる場合がありますが、ステロイド外用薬である程度皮膚の状態を改善した後に、タクロリムス軟膏に切り替えることで緩和されます。
    外用薬は、医師の指示通り継続して使用することが重要です。「お薬はできるだけ少量に留めたい、早く終了したい」「あまり痒がらないから塗りたくない」などで、勝手な使い方をしてしまうと、効果が実感できず、かえって治療期間も長くなってしまいます。十分に皮膚の赤みや、かさつき、痒みが改善した状態で外用剤を減量します。ただし、急に外用薬を中止するのではなく、1日2回塗布していたものを、1日1回、隔日、という様に徐々に減量します。一見、治った様に見えても、週2回など、予防的に外用療法を継続すると、良好な皮膚の状態を維持することができます(これをプロアクティブ療法といいます)。

↑プロアクティブ療法の図

(痒みや湿疹があるときだけ、ステロイド外用薬を使用していると、かえって治療が長びいてしまう)

内服療法
  • 内服薬としては、痒みを軽減させる抗ヒスタミン薬が用いられます。痒みが強くて、夜眠ることができなかったり、我慢できずに搔爬が止まらない場合などに用います。ただし、ステロイド外用薬の様に、皮膚の炎症を抑えることは出来ませんから、あくまで痒みが強い間の補助的な治療です。