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気管支ぜん息



ぜん息の病態

気管支ぜん息の子どもは増えている

現在、ぜん息の患者さんは小児全体の約6%で今なお増加傾向にあります。この増加の背景としては「自宅や学校など身の回りの環境の変化」が大きな原因になっています。現代の家は気密性が高く、ダニやホコリが増えやすく、これらのアレルゲンに暴露する機会が増えているためと考えられます。
ぜん息の患者さん2~3歳くらいまでに発症することが多く、小学校入学頃までにはほとんどの子が何らかのぜん息症状を経験しています。
乳幼児期にぜん息の症状を認めた患者の約6割は小学校入学の頃までにこの様な症状を認めなくなっています。ただ小学生になった後にも発作を認める場合には成人まで症状を持ち越すことが少なくありません。この様にぜん息はまだまだ治療が難しい病気ですが、少しずつその病態が解明され、近年さまざまな薬が開発され、他の子と変わりなく学校生活やスポーツに取り組むことができるようになりました。

ぜん息の病態は慢性的な気道炎症と狭窄

私たちが空気を吸うと、それは鼻や口から取り入れられ、気管から気管支と枝分かれして最後は肺に行き着きます。この空気の通り道を気道といいます。
ぜん息の患者さんは、気道に何らかの刺激が加わると気管支を取り巻く平滑筋が収縮して空気の通り道が細くなります。さらにこの狭窄した気管の内側の粘膜が炎症をおこしむくみ、痰が分泌されてさらに空気が通りにくくなります。狭くなった気道で無理に呼吸をしようとするため苦しく、ヒューヒューという音が鳴ります(ぜん鳴)。これがぜん息発作です。
ぜん息発作が治まっているときでも実はぜん息患者の気道では炎症が続いています。この慢性的な気道の炎症がぜん息の特徴です。炎症で傷ついてしまった気道の粘膜が治っていくのにはとても時間がかかります。一度傷ついてしまった部分はダメージを受けやすく、ちょっとした刺激でも簡単に発作を起こしてしまいます。
またこのようにして発作を繰り返すと徐々に正常の気管とは違ったかたちで修復されていきます。これを気管のリモデリングといい、リモデリングをきたしてしまうと気管支が固くなりやがて肺の機能が低下してしまいます。ぜん息のコントロールはこのリモデリングをいかに抑えるかが大切です。

ぜん息の検査

診断
  • レントゲン検査
  • 血液アレルギー検査
気道炎症の評価
  • 呼気NO測定
気道の狭窄
  • フローボリューム曲線
  • ピークフロー
  • 血液酸素飽和度

ぜん息の診断や重症度の評価には必要に応じて様々検査を行います。ぜん息と他の病気の鑑別には胸部レントゲン検査や血液アレルギー検査を用います。気道の炎症の有無や、コントロールの指標の一つとして近年呼気中の一酸化窒素濃度の測定が行われるようになってきました。気道の狭窄の程度、肺機能の評価には、フローボリューム曲線、ピークフローなどが用いられます。

呼気NO(一酸化窒素濃度)測定について

当院ではぜん息の診断と治療に呼気NO測定を用いています。ぜん息の患者では呼気ガス中のNOが健常者に比べて高いことが知られています。気道の炎症が強いと呼気NOは上昇し、吸入ステロイドなどを用いた適切な治療を行うことで低下します。呼気NOを測定することで気道の炎症レベルを客観的に評価して、治療に役立てることができる可能性があります。

肺機能検査(フローボリューム曲線)について

気道の狭窄を調べるのが肺機能検査です。わかりやすいのがこのフローボリューム曲線で、息を吐くスピードを調べてグラフにします。気道に狭窄がある場合には呼気の流速の低下が認められます。呼気NO検査と同じように定期的に調べることで客観的に治療を評価することができます。

ぜん息の治療

ぜん息発作時の治療

ぜん息発作がおきてしまったときの対処法を知っておきましょう。まず痰などが絡まないようにこまめに水分を摂らせてください。
たまに吐いてしまうことがありますが、かえって痰がとれて楽になる場合もあります。気管支拡張薬など、あらかじめ医師から発作時の処方を受けている場合にはそれを使ってください。
換気をしたり、少し外に出てみるのも気分転換ができてよい場合があります。ぜん息発作の時は仰向けに眠るよりすこしからだを起こしているほうが楽に呼吸ができます。小さい子の場合はだっこしてあげると、からだを冷やさず、不安をやわらげてあげることができます。

このような対処でも状態が改善せず、すごく苦しがったり、夜間であれば寝付くことができない、すぐ目を覚ましてしまう、何度も吐き繰り返してしまう、などの症状が持続するようならすみやかに当院あるいは救急病院などを受診してください。

ぜん息の長期管理

慢性的な気道の炎症がぜん息の特徴です。炎症で傷ついてしまった気道の粘膜が治っていくのにはとても時間がかかります。一度傷ついてしまった部分はダメージを受けやすく、ちょっとした刺激でも簡単に発作を起こしてしまいます。このような状態が長期間持続するとやがて肺の機能が低下してしまいます。ぜん息の長期管理とは、ぜん息をコントロールして、ぜん息のない友達と変わらない生活がおくれるようにすることです。これが気道の炎症を抑えて、リモデリングを起こさせないことにつながります。

ぜん息の治療の三本柱

環境整備
  • 生活環境からぜん息発作の原因を減らす
運動療法
  • 基礎的な体力を身につける
薬物療法
  • 患者様個々の重症度やライフスタイルを考慮して治療薬を選択

ぜん息治療の三本柱は環境整備、運動療法、薬物療法です。

環境整備

環境整備では生活環境からぜん息発作の原因を減らします。ぜん息発作をきたすもっとも重要なアレルゲンはダニとハウスダストです。
こまめに掃除機をかけて週に1回は布団をお日様に干すなど、できるだけ生活環境からこれらを排除します。犬や猫、小鳥など毛のあるペットは飼育しない方が望ましいです。すでに飼育している場合には主治医の先生と相談しましょう。
煙草の煙はぜん息の子どもたちの気道を刺激してしまいます。仮に子どもの前でタバコを吸わなくても呼気や衣類に含まれる化学物質が気道を刺激します。家族に喫煙者がいる場合には是非禁煙にチャレンジしてみてください。

運動療法

ぜん息の症状が落ち着いているときには適度な運動を行って基礎的な体力をつけることが大切です。

発作が起こりにくくなり、また重症化させないなどの効果が期待できます。湿度が保たれた環境で行うことができる水泳や、適度なウォーキングなどがなどがぜん息の患者さんに適しているといわれます。ただ、適切に治療を行えばどのような運動でも行うことができます。子どもたちが好きで継続することができる運動を勧めてあげるのが良いと思います。

運動誘発ぜん息予防の主なポイント

ただ、運動をすることでぜん息発作が誘発されてしまう場合があります。これを「運動誘発ぜん息」といいます。運動前にはウォーミングアップをしっかりとおこない、冬場など乾燥した環境ではマスクをするなどの対処で防ぐことができます。運動誘発ぜん息の頻度が多い場合は、運動の前に気管支拡張薬を吸入、内服します。
発作が起きてしまったら楽な姿勢でゆっくり呼吸をして、少しずつ水分を取りながら休みます。気管支拡張薬の準備があれば使用します。運動誘発ぜん息の症状はこのような対処でだいたい15分くらいで治まります。症状がよくなった場合には、運動を再開してかまいません。しばらく待っても症状が改善しない場合には医療機関を受診してください。運動のたびにぜん息発作が出てしまうような場合は基本的なぜん息のコントロールが良くない可能性があります。この場合は治療の見直しが必要です。

薬物療法

2歳未満

基本治療追加治療
ステップ1
発作の強度に
応じた薬物療法
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG吸入
ステップ2
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG
吸入ステロイド薬(低用量)
ステップ3
吸入ステロイド薬(中用量) ロイコトリエン受容体拮抗薬
長時間作用性β2刺激薬
(貼付薬あるいは経口薬)
ステップ4
吸入ステロイド薬(高用量)
以下の併用も可
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
長時間作用性β2刺激薬
(貼付薬あるいは経口薬)
テオフィリン徐放製剤(考慮)

DSCG:クロモグリク酸ナトリウム(インタール)

2~5歳

基本治療追加治療
ステップ1
発作の強度に
応じた薬物療法
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG
ステップ2
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG
and/or
吸入ステロイド薬(低用量)
 
ステップ3
吸入ステロイド薬(中用量) ロイコトリエン受容体拮抗薬
長時間作用性β2刺激薬の追加あるいはSFCへの変更
テオフィリン徐放製剤(考慮)
ステップ4
吸入ステロイド薬(高用量)
以下の併用も可
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
・テオフィリン徐放製剤
・長時間作用性β2刺激薬の併用あるいはSFCへの変更
以下を考慮
・吸入ステロイド薬のさらなる増量あるいは高用量SFC
・経口ステロイド薬

SFC:サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル配合剤(アドエア)
吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬の配合剤

6~15歳

基本治療追加治療
ステップ1
発作の強度に
応じた薬物療法
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG吸入
ステップ2
吸入ステロイド薬(低用量)
and/or
ロイコトリエン受容体拮抗薬
and/or
DSCG
テオフィリン徐放製剤(考慮)
ステップ3
吸入ステロイド薬(中用量) ロイコトリエン受容体拮抗薬
テオフィリン徐放製剤
長時間作用性β2刺激薬の追加あるいはSFCへの変更
ステップ4
吸入ステロイド薬(高用量)
以下の併用も可
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
・テオフィリン徐放製剤
・長時間作用性β2刺激薬の併用あるいはSFCへの変更
以下を考慮
・吸入ステロイド薬のさらなる増量あるいは高用量SFC
・経口ステロイド薬

(資料:「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012」協和企画)

気管支ぜん息の長期管理薬の中心は吸入ステロイド薬です。ただ乳幼児では吸入手技が難しいことなどがあり、シングレアやオノンなどのロイコトリエン受容体拮抗薬が第一選択になります。発作の重症度と年齢、また患者それぞれの生活背景などから治療薬を決定します。

治療はステップ1から4まで、4段階に設定されています。乳幼児の軽症児では長期管理薬は主にシングレアなどロイコトリエン受容体拮抗薬を用いますが、発作頻度が多かったりロイコトリエン受容体拮抗薬だけでは良好なコントロールが難しい場合には吸入ステロイドを用います。学童以上では軽症から吸入ステロイドの使用が推奨されます。
発作がなく無症状の状態が続くほど気道の炎症は治まっていきます。ですから発作のない状態でも長期管理薬を継続することが大切です。症状がなく、外来での検査やピークフロー値が安定している期間が持続すれば徐々に薬を減量していきます(ステップダウン)。ぜん息の治療は概ね3か月から半年くらいでステップダウンを含めた見直しを行います。

ぜん息のセルフコントロール

より良いぜん息コントロールを目指すには、生活環境を整備したり、健康に気を付けたりというように、患者さん自身が「ぜん息を管理する」という気持ちが大切です。

ピークフローの測定とぜん息日誌

セルフモニタリングの中心になるのがピークフローの測定とぜん息日誌です。
ピークフローの測定には、ピークフローメーターを使います。最大の力で息をはき出したときの息の強さを計測するもので誰でも自宅で簡単に測ることができます。発作のない時から毎日ピークフローを測定して、値が落ちてくれば、あらかじめ吸入をするなどの対処ができます。毎日ピークフローの値を書き込むのがぜん息日誌です。

ぜん息日誌にはピークフロー値のほかに症状や、夜眠れたか、学校を休んだかなどの日常生活、薬をきちんと飲んだか、発作時の頓用薬を使ったか、などを書き込みます。毎日ぜん息日誌をつけることで、たとえば体育があるとピークフロー値が落ちるなど傾向に気が付いたりします。またぜん息日誌を毎回受診の際に持参することでぜん息のコントロールの状況を主治医と確認することができます。

ぜん息教室

気管支ぜん息をセルフコントロールするためには、ぜん息の正しい知識が必要です。このぜん息の理解を深めるために当院で行っているのが「ぜん息教室」(不定期開催)。診療の中では説明しきれないぜん息の病態や環境整備の重要性、「ぜん息日誌」の活用方法についてご家族を対象に解説しています。ピークフローの実演も行いますので、この「ぜん息教室」をきっかけにぜん息のセルフコントロールに取り組む方も少なくありません。診察室だと聞きづらいこともリラックスして質問できたり、ご家族同士の意見交換の場として話が盛り上がることもあります。

ぜん息なんかに負けないで!